2019/09/19

学生によるインターンレポート 京都工芸繊維大学大学院 修士1年 生田海斗

京都工芸繊維大学大学院修士1年の生田海斗と申します。2019/8/26~9/6までの二週間、(株)古森弘一建築設計事務所(以下:古森事務所)の夏季インターンシップ生として実習させて頂きました。様々な方にフラットに見て頂くレポートとして、また自分自身のアーカイブとして、稚拙な文章ですが細やかに書き留めさせていただきます。

■インターンが始まるまで

私が古森事務所を希望した理由ですが、元々私自身が「地方都市に根付いた建築家像」を朧気な目標としており、しかしその片方で、大都会で安定的な「大規模・大建築をつくりあげる建築家像」への関心の割合が大きくなっていた中、「方眼の間(住宅特集2019年3月号)」という古森事務所の住宅建築と出会いました。建築にとって普遍的な「構法」が豊かなおおらかさを抱え、どこにも偏ることなく存在している姿に、まるで施主の縦線と建築家の横線で描かれた方眼用紙に、生活の瑞々しさを共に加筆していくような、読者である私にまで晴れやかな感覚を想起させてくれた印象を覚えています。建築家による強烈なステートメントという建築でも、迎合的な建築でもない、様々な大らかな関係性が建築で結びついている状態に、地方都市でこそでき得る建築の可能性を感じ、その最前線に自分の身を置きながら古森事務所の設計理念や制作過程を理解したいと思い志望致しました。受け入れの連絡を頂き、北九州という土地への高揚感と、プロの事務所へ行くことへの緊張感を抱きつつ、古森事務所に向けて京都を発ちました。到着後から開始までの間や週末には多くの北九州の風景や建築をスケッチし、北九州という土地をフィジカルに書き留めていきました。

■インターンの主な内容

インターン生は所員の皆さんと同じ時間帯で働き、その中で例えば月曜午前は全体清掃を行ったり、昼食は在室メンバー全員で一つの机を共有しながら食べたり、月1回事務所中心にオープンな勉強会を行ったりと、幾つかのルーティンに触れます。この事務所のルーティンは、働き方のリズムをつくっており、その環境がアウトプットとしてできた建築の誠実さにも繋がっている感覚を持ちました。

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実習1週目では、保育園の二次プロポーザルに向けたモデリング・CGの制作を行いました。お施主さんの要望やデザインの理念・イメージを聞きながら自分なりに平面を立体化し、賑やかで伸びやかな雰囲気を壊さないようなパースを目指しました。客観的なファクターと主観的なイメージの建築の表現として、ビジュアライゼーションの力はその魅力度に大きく関与します。その担当として、少ない時間で拾い上げられたファクターを自分なりに咀嚼し、子どもたちの声であふれる園舎を感じるような一枚を制作しました。末端で部分的ではありますが、私がこのプロジェクトに関われた事を嬉しく思います。

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実習2周目では、主に新規プロジェクトの土台作りを行いました。あるプロジェクトでは貴重な既存樹木の模型作成や、敷地をモデリングすることによる正確な立体化、そして別のイベントプロジェクトでは敷地調査を共有しながら即日設計によるブレーンストーミングのようなプラン練りを行いました。採用でき得る案として還元できたかわかりませんが、11月の完成を楽しみに待ちつつ、最終日の勉強会に参加後、帰路に就きました。

 

■建築見学(進行中の現場と4つの私邸)

今回のインターンでは実際の施工現場から竣工後の施設まで、多くの建築作品を案内して頂きました。施工現場では、保育園の新築現場を見学させて頂きました。期日の中で日々ブラッシュアップを重ね、どこで指示や修整を入れるのかという点は非常に難しく感じました。また、自分の設計の射程の短さを痛感したので、現場と設計者の応答を少しでも垣間見れた体験を元に、視野を更新して今後の設計に臨んでいきたいと思います。

竣工後の建築見学では、4つの住宅建築を見学させていただきました。実際に設計を担当された所員さんとお施主さんのいる中で、新築から築後10年までの幅を持った住宅建築を学べる機会は本当に僅かです。アンテナを大きく張り、お施主さんの話す一字一句や内装材一つをとっても、気付きと発見の連続でした。一軒一軒細かく感想を述べたいところですが、かなりの長文となるため割愛させて頂きますが、4軒ともに関連した非常に大きな学びとして挙げられるのは、お施主さんの愛情が数十年先も建築を保存していく原動力となり、そこには性能や標準耐久年数、物件価格を超えた部分があるという事です。貴重な機会を設けて頂きありがとうございました。

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■インターンを終えて

少し飛躍しますが、現代社会では様々なものが急速なデジタル化を達成し、相手の顔が見えることが必ずしも必須ではなく、また最終物が良ければ誰でもいいというような場合が多くなってきています。建築の部分でもその潮流は大きくあり、具体的な誰のための建築なのか不明瞭な建築が立ち並ぶのを許容する状況が続き、それが大きく成熟しつつあります。その潮流もある種の正義だとは思いますが、それとは逆方向に自分は進んでいきたいと思いました。この人じゃないとできない、この人のためにつくりたい、そのような関係性や感情を忘れずに建築をつくっていきたいという思いをどこで実現するのかと考えたときに、そのフィールドはやはり地元でありたいし、そうあるべきだと背中を押された二週間でした。設計のテクニックや、計画の上手さを超えたもっと密度の高い経験値が得られました。特に、古森さんには度々お話する機会を設けて頂き、向かうべき方向や目標への解像度を高めて頂きました。ありがとうございました。

最後に私事ですが、今この文章は帰路の特急電車の中で書いています。瀬戸内の温暖湿潤な気候と地元の大らかな暮らしが目の前を流れていく中、私にしかできないことを建築家という形で、そして衰退する街で一人のプレイヤーとして小さな部分でも幸せを重ねられるような存在になることが自分の目標だと再確認しました。この決意を胸に、再び京都の地で今できる建築の学びを深めていこうと思います。

この度はご多忙にも関わらず快く受け入れて頂きました古森建築設計事務所の皆さん、この場をお借りして深く感謝申し上げます。ありがとうございました。また北九州に帰ってきます。

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